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BANANA FISH 二次小説

『smoke』

 この先俺は、いや俺たちはどうなるんだろうか……。

 周囲を傭兵たちに囲まれて、ビルに立てこもり続けて。
 結局最後は皆殺しにされるのだろうか。
 俺も英二も死ぬのだろうか。

 外に光が漏れないように、手で覆いながらタバコに火をつけた。
 自分の指がかすかにわなないていることに気づく。
「くそっ」
 死にたくない。
 いや、それよりも。
 死なせてはならない。
 英二も、仲間も。
 たとえ俺が死んで、それで皆が助かるなら喜んでこの身を差し出そう。
 だが奴らはそれほど甘くないはずだ。
「アッシュ?」
 東洋人特有の舌足らずな発音。アッシュの心を甘く擦る恋人の声。
「ん?」
「タバコ、吸ってるの?」
「ああ……」
「山猫さんがタバコなんて、どうしたの? ひょっとして、びびってる?」
 その声が少し震えている。
 びびっているのはお前のほうだぞ。
 そう思ったが、アッシュはあえて言わなかった。
 英二に合わせて軽口を叩く。
「まさか。お前に会う前はよく吸ってたんだぜ?」
「そうなの」
「おいおい、タバコなんて吸ったことなぁい♡なんて言うんじゃないだろうな?」
「え、そのとおりだけど?」
 やれやれ、図星か。
 ウブだと思っていたが、タバコすら吸ったことがないとは。
「でも美味しいんなら、試してみたいよ」
「苦いだけだ」
「それ、吸わせてよ」
「だめだ」
「なんでだよ」
「だめだからだめだ」
「もう! 君ってときどき意地悪になるよね」
 その言葉の何が自分に火をつけたのかわからなかった。
 チリリッと何かが胸を灼き、怒りに似た感情が急速に湧く。
 大きく煙を吸い込むと、英二の腕を掴んで乱暴に引き寄せた。
「っ!」
 胸の中で英二が激しく抗っている。
 けれど両手首を掴んでなんなく押さえ込み、アッシュはくちづけながら、タバコの煙を英二の口の中にゆっくりと吐き出した。
「っ、ゲホッ、ウゥ」
 唇を解放してやれば、案の定、英二はゴホゴホと派手にむせた。
 黒い瞳に涙が滲んでいる。
「ひ、ひどいな。こんなことしなくたって……!」
「吸いたかったんだろ、オニイチャン?」
「……ほんとうに君って、」
 意地悪だ、と二度言わせたくなくて、アッシュはタバコを投げ捨てると、英二を抱き寄せ、もう一度吐息を奪った。

fin