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時間
「坊ちゃん……」
抱きしめて、唇を重ねて、足を絡ませて。
声を枯らして、求め合って、貪って……。
なにもかも忘れて、愛し合いたい。
最期はもう近いのだから──
信じてもいい?
氷のように冷たい指なのに、
僕の唇をなぞる仕草は甘く優しくて、
悪魔がこんなに優しい生き物のはずはないと思っても、
僕を穏やかに見つめる瞳に柔らかく包み込まれてしまえば、
ぐらりと気持ちが傾く。
悪魔に心はあるのだろうか。
ヒトを愛することなんてあるのだろうか。
ほんの少しだけ……その胸に身をゆだねてもいいのだろうか。
七夕
「年に一度しか会えないなんて、寂しすぎるよ。
毎日一緒にいたって、ときどき寂しくなるのに」
「寂しがり屋の誰かさんの傍は、絶対に離れませんよ。
だから、安心して……」
長い指が顎を掬う。
重ねられた唇は、温かくてやさしかった。
セックスしないと出られない部屋
その1
坊「……するのか?」
セ「しなければ、出られませんから」
坊「嫌なのか?」
セ「嫌だと言ったらどうします?」
坊「構わない。僕がしてやる」
セ「……………」
雑踏
通り過ぎたとき、ふと予感がして振り向いた。
その少年も何かを感じたのだと思う。同じように振り返り、一瞬目と目が合った。
すべての音が消え、世界が消えた。
この世界にただふたりきり。
一歩、歩み寄り、そのまま腕を掴んで、抱きしめればよかったのかもしれない。
けれどその一瞬はたちまち過ぎて、街のざわめきが再び聴こえ始め、
私は彼に背を向けて、友人と待ち合わせた場所に急いだ。
せめて名前だけでも訊けばよかったと気づいたときにはもう、
彼の姿は溢れる人の波にさらわれて、あの小さな背中を見つけることはできなかった。
その人とすれ違ったとき、何かに喚ばれたような気がしてくるりと振り返った。
穏やかな紅茶色の瞳が僕を見つめている。
一瞬その厚い胸に飛び込みたいと思ったけれど、僕を呼ぶ母の声に慌てて踵を返した。
一歩離れるごとになぜか胸が詰まって、涙が溢れそうになる。
心の中で何かが強く訴えている。
いま捕まえなければ。
いま追いかけなくては。
永遠に彼を失ってしまう。
僕の足は次第にのろのろと遅くなり、ついにはぴたりと止まってしまった。
「シエル? どうしたの?」
母が不安げに声をかける。
「うん……」
行かなくてはならない。
彼を見つけなくてはならない。
切羽詰まった思いに駆られて、僕はいきなり振り返ると、
地面を蹴って全速力で走り始めた。
「あっ、シエル!」
母の悲鳴に似た声が追いかけたけれど、もう僕を止めることはできなかった。
あの人を。
あの黒髪の男を。
捕まえなければならないのだ。
人波をくぐって、僕は男を追いかけた。
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