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===以下サンプルです===
最近のラブホテルはこんなにも豪華なのか、とセバスチャンは驚愕した。
想像していたのは、安っぽいベッドに、すり切れたカーテン。なんの汚れかわからないシミが点々とついているシーツ。トイレとバスは古く薄汚れていて、およそ使う気にもならない──。そんな連れ込み宿を想像していたのだ。
それがどうだろう。
シエル・ファントムハイヴが連れて来たのは、超高級マンションにも劣らない贅沢なホテルだった。
ゴブラン織りのシックなカーテンに囲まれた広い部屋には上品で金のかかった調度品が並び、片隅にはバーカウンターさえある。奥にはシルクのシーツをふんだんに使った天蓋付きの大きなベッドが見えた。
セバスチャンは、触れるのもはばかるような繊細な椅子の背に着古したコートをかけて、数週間前のことを思い出していた。
化学の教師であるセバスチャンがシエル・ファントムハイヴから相談を受けたのは、十月の終わりのことだった。放課後、白衣を脱いで帰り支度をしていたときに、彼はノックもせずに、化学室に入ってきたのだ。
「ファントムハイヴ君?」
この有名な美少年のことはセバスチャンも知っていた。学年一優秀であり、かつ、人目を惹く美貌の持ち主。天は二物を与えずといったものだが、シエルに関しては、それはあてはまらなかった。優秀な頭脳と美貌、それに加えて英国で五本の指に入る資産家のひとり息子である。これ以上恵まれている子どもはめったにいないだろう。
そのシエル・ファントムハイヴが思いつめた顔をして、化学室にいきなり入ってきたときには、日頃冷静なセバスチャンもさすがに驚いた。
「先生……」
と、シエルはうつむきがちにぼそりと言った。蒼と紫の瞳を縁取る長い睫毛に一瞬どきりとする。
「僕、家に帰りたくないんです……」
<中略>
ハッと目覚めて、枕元に置いた腕時計を掴んだ。
「え……?」
あれほど永く感じたのに、学校を出てからまだほんの数時間しか経っていない。すぐにはのみ込めず、立ち上がって、分厚いカーテンを開けた。
西の空に紅が残っている。
愛欲にまみれているうちに、時間の感覚が狂ったのだろうか……。急に深い疲労感に襲われて、セバスチャンはよろよろとソファに倒れ込んだ。目の前には、汗を吸ったシルクのシーツの波間に、この世のものとは思えない美しい少年が横たわっている。
「嗚呼……」
決して越えてはならない一線を越えてしまった。
もしも誰かに知られたら。
監獄に投げ込まれ、一生出ることはかなわないだろう。
思わず、両手で顔を覆った。
「先生?」
澄んだ声が聞こえて、のろのろと顔を上げると、シエルが大きく目を開けてこちらをじっと見ていた。その表情は天使のように純真で愛らしい。
──この子のためなら、どんなことでもできる。
このままさらって逃げてしまおうか。
どこか遠い街でふたりだけで暮らして。昼も夜も彼を貪り、抱き続けて……。
しかし起き上がったシエルは、シャワーを浴びると、家に帰ると言い出して、セバスチャンを驚かせた。
あれほど嫌がっていたのに、いったいどういう風の吹き回しだろう。
「本当に、いいのですか?」
「うん」
迷いのない表情でシエルはうなずく。
困惑しつつも、セバスチャンはシエルの望み通り、屋敷まで送っていった。あの黒いリムジンは車寄せになく、ほっと胸を撫で下ろした。
運河沿いの道をよろめくように歩いて、家に戻ると、後悔の念がじわじわと押し寄せてきた。
あんなことをすべきではなかった。
つい魔がさしてしまったのだ。
だが、どんなに後悔しても時は戻らない。
起こってしまったことは取り返しがつかない。
ふと、帰宅したシエルのことが気にかかった。
──話してしまうのではないだろうか。
いつもと様子が違うことを問いつめられて、なにもかも打ち明けてしまうかもしれない。いや、良心の呵責に耐えかねて、自ら告白してしまうかもしれないのだ。
疑心暗鬼に陥った。
後悔と不安と恐怖とに苛まされ、何度も寝返りを打ち、悶々として眠れぬ一夜を過ごした。翌朝、びくつきながら出勤すると、「昨日は大変だったね。シエル君は大丈夫だったかい」と教師たちが心配げに声をかけてきて、いつもと変わらない日常がセバスチャンを待っていた。
「バレてないよ」
その日の放課後、以前のように化学準備室を訪ねてきたシエルは、不安そうなセバスチャンの顔を見ると、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、抱きついた。
すうっとシエルの髪の匂いが鼻先をかすめ、昨日の情事が鮮烈に蘇る。甘く零れ落ちる声。弓なりにのけぞるしなやかな背中。汗ばんだ太腿……。
こくり、とセバスチャンの喉が動いた。
いけないという理性の声を無視して立ち上がり、カチリと部屋の鍵をかける。
「先生。鍵なんかかけて、どうするんだ?」
シエルが上目遣いに訊く。
「さあ、どうするのでしょうね」
くすりと笑って焦らせば、シエルは不満げに口を尖らせる。そのからだをぐいっと引き寄せて、膝の上に乗せた。
「では……キスから始めましょうか」
銀の髪を梳き、うっとりと目を瞑った彼の顎をとらえて、薄桃色の唇に唇を寄せる。頬を撫で、柔らかい唇を口に含むように啄んだ。
──どうしてこんなにも惹きつけられるのだろう。
人を好きになったのは初めてではない。けれど、見ればたちまち全身が欲情するような──こんな気持ちは味わったことがない。
キスは次第に深くなる。
シエルの頬に手を添えて、快感を分かち合うように、舌をすくっては、あまやかに絡めた。
くちゅ、くちゅと淫靡な音が耳を打つ。
唇を合わせながら、シエルのベルトをはずし、スラックスの中に手を忍ばせた。
「あっ……」
反応を確かめるように、軽く触れると、そこはもう熱く、兆している。
柔らかく握り込み、緩く動かし始めた。
「んんっ」
肩を押されて抗われても、セバスチャンはシエルのからだを抱きしめて離さない。舌で耳朶を丁寧に愛撫しながら、根元から先へ、ゆっくりと指を動かした。
「……や、あ……ぁ……っ」
「声を、抑えて」
耳元で低くささやく。
シエルは洩れる声を必死に押し殺し、腕の中で身をくねらせ──突然、足を突っ張らせると、セバスチャンのからだに強くしがみついて、掌の中に一気に昂りを迸らせた。
「……ッァア!」
「もう、イってしまったんですか?」
息を乱すシエルにからかうように聞くと、恥ずかしそうに目を伏せて、コクンとうなずく。その仕草が愛しくて、指にまとわりついた白濁を口の中に無理矢理、押し入れた。
「ッン」
白く汚れた指で口内を蹂躙すれば、無垢な瞳に涙を浮かべて、苦しげにセバスチャンを見つめる。
腰の奥がずくりと疼いた。
シエルを強引に立たせて、机に手をつかせる。
「せんせ……?」
答えずに、後ろから薄い背中にのしかかり、滾った熱を押し込めるようにして、ぐっと挿れた。
「あぁっ!」
小さな叫びをあげて、床に崩れ落ちそうになるシエルを背後から抱え上げ、奥へ奥へと侵入を進める。
「……あ、ぃや、せんせ……」
シエルの喘ぎが頭を溶かす。はだけたシャツに手を入れて、汗の滲む肌に指を這わせ、胸の突端を摘み上げた。シエルは首をのけぞらせて、大きく喘ぎ、淫らに絡み合うふたりの姿が正面の窓ガラスに映る。
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