たったいま終えたばかりのキスが恋しくて、もう一度唇を合わせた。
「んッ」
「坊ちゃん……」
ひんやりと心地いい、大きな手のひらが僕の髪を撫でていく。ぞくぞくと背筋に震えが走った。
「好きだ、と言ってください」
「嫌だ」
「どうして?」
「お前が、喜ぶから」
「ふ、いじわるですね」
たまには喜ばせて下さい、とセバスチャンは甘えるようにささやいて、耳たぶを噛む。そのままゆっくり首筋に舌を這わされた。
背中に腕を回されて、僕のからだはシーツから浮き上がる。
「では、今夜は私が言いましょう」
セバスチャンは正面から僕を見た。
「愛しています」
「……馬鹿か、お前は」
「馬鹿で結構ですよ。貴方への気持ちは変わらない」
「信じない」
「ええ。それでも結構です。きっといつか、信じてくださるでしょう」
「たいした自信だな」
「それしか取り柄がございませんので」
僕は悪魔から目をそらした。
どうせ、最期には僕を喰らい尽くすくせに。どうして愛しているなんて言えるんだ。
黙り込んでしまった主の儚いからだをそっと抱きしめた。
悪魔の言葉など、信じなくていい。
そのままの貴方でかまわない。
「坊ちゃん」
私の視線を避けるように、主はうつむいた。
「お前は…、だって、いずれ……」
その先は私も知っている。
いずれ、貴方を喰らうのだ、と。
貴方も私もそう思っている。
だが、本当に?
「結末は、誰にもわかりませんよ」
そう呟くと、主は目を見開いて、私を見つめた。
不安定に瞬く瞳に胸を灼かれる。
「わからないのです……私にも」
すべてが終わったとき、私はどうするのだろう。
悪魔の本能に抗えるのだろうか、私は。
その先には、いったい何が待っているのだろう。
主を抱いている、いまこの瞬間。
このまま時が止まればいい。永遠に──