ほしのかけら





 光が天をよぎっている。
 青白い無数の光の群れ。
 流星群が冬の夜空を駆けていく。
 そのときひときわ蒼く輝く光が流れ、目を奪われた。
 主人の魂のようなその光は、哀しいほどに美しかった。





「坊ちゃんにとって、なにが一番幸せなのでしょうか?」
「突然、なにを言う」
「教えていただけませんか?」
「そんなこと、分かりきっている。復讐を遂げて、お前の腹のなかにおさまることだ」
 ぼそりと呟く主人の瞳が翳っている。
「坊ちゃん」
「なんだ?」
「それが貴方の幸せだと?」
「ああ」
「──……嘘は、おっしゃらないでください」
「別に、嘘じゃない」
「……」
 不満げな私を見て、主人は嘆息した。
「ふん。言えば、お前が僕を幸せにするとでも?」
「さあ、それは聞いてみなければわかりませんが」
 はっ、それもそうだと主人は笑い、くるりとうつぶせになって、枕の上で頬杖をついた。
「そうだな……」
 真剣に考え始めて、すぐにからだを起こした。
「おいっ、聞いても絶対笑うなよ」
「笑いません」
「もうその顔が笑っている」
「いえ、これは地顔ですから……」
 大げさに眉を八の字にしてみせれば、主人はぷくくと軽く笑って、再びぽすっと枕に顔を埋めた。
 凍てついた森からホォホォとかすかに梟の声が響く。
「──おとうさまとおかあさまと……シエルと、昔のように、この屋敷で、なにひとつ心配することなく、暮らしたいな」
 昔を懐かしむような甘い声。
 ちくりと胸が痛くなった。
 私は彼から顔をそむけ、窓の外を見上げた。
 まだ星は堕ちてくる。
 濃紺の夜空が銀の光で埋め尽くされそうだ。
 ふと静かな気配に気づいて、主人に視線を向ければ、白い小さな背中が小刻みに震えていた。
「坊ちゃん?」
「……」
 かすかな嗚咽が耳に届く。
「泣いているのですか?」
「ッ、うるさい」
 主人はぐいと腕で顔をこすった。
「お前が妙なことを聞くからだ」
「それは……」
「どうせ、お前には叶えられないんだろう?」
「──申し訳ありません」
「なら最初から聞くな、馬鹿者」
 主人は上掛けを握ると、ぐっと引っ張ってベッドの中に潜り込んでしまった。
 ぐすりと鼻をすする音が聞こえる。
 私は半裸のからだを起こし、のろのろとシャツの袖に腕を通した。
 お仕着せの執事の姿に戻って、主人のベッドの脇に立つ。
 機嫌をとるように
「ホットミルクをお持ちしましょうか」
 といえば、
「いらない」
 丸くふくらんだ布団の中から小さな声がした。
「では──おやすみなさいませ。坊ちゃん」
 寝室の扉をそっと閉めた。

 ひと気のない廊下を階下の自分の部屋へ向かって進む。
 蝋燭の灯りがゆらゆらと壁を照らしている。

 答えなど最初からわかっていた気がするのに。
 なぜ尋ねてしまったのだろう。

──おとうさまとおかあさまと……シエルと

 彼の望む幸せの中に、私はいない。
 そのことが深く心を抉った。