悪魔の日

 貴方も私も悪魔だった頃があったのですよ、と話したら、貴方はどんな顔をするだろう。
 ぷっと笑って「まさか」と言う?
 真剣にこちらを見つめる?
 からかっているのかと、頬を赤くして怒りますか?

 貴方はなにもかも、もうすっかり忘れて、ヒトとして生まれ、ヒトの世に在るけれど、何千年という時を積み重ねた悪魔の記憶は、鉱物のように硬く、決して消えることはない。

 確かに、いっとき、貴方も私も悪魔として生きたのです。

 けれど、ある日突然、泡が消えるように貴方は消滅し、貴方の不在を胸に抱えたまま、私は生き続け───そうして、また新たな貴方に出会った。

 そんなことが起こり得るとは思わなかった。貴方なしで、己の身が消滅するまで、彷徨い続けなければならないと思っていたのに。

 前よりも少し成長した姿で現れた貴方は、私のことなどまるで覚えていないくせに、なぜかタイミングよく、私の前に何度も現れ、そして見えない糸を手繰り寄せるようにして、私を捕まえ、夢中にさせ、再び貴方は私を手に入れた。
 
 いま、貴方は私の腕の中にいて、懐かしい、あの瞳で私を見上げている。

 かつて、自分の失態で、ふたりが闇に堕とされてから、ずっと考えていたこと。
 今度こそ、叶えたい。

───貴方をしあわせにしたい。

 ただ、それだけを。

FIN