ちょっと一服 2015

140字SSまとめ



『抱き枕』※セバスの抱き枕発売記念に書いたものです

坊「お前、あれはなんだ。少しは自重しろ」
セ「なんのことです」 
坊「例の……抱き枕カバーだっ」 
セ「おや、なぜ頬が赤いのです?」 
坊「あ、赤くなどないっ。なんで僕が赤くなるんだっ」 
セ「欲しいのなら、差し上げますよ……生身のほうを」
坊「いらん、こら、ベルト外すな、寄るな、バカ!」



『犬』
「来いよ」
シーツをポンポンと叩く。大きな黒犬は首を振ってその場から動かない。 
「おいで」
優しく手招いてみた。だめだ。やっぱり動かない。
「…………いらっしゃい?」
言うと、ハフハフと熱い息を吐いて、嬉しそうに一足飛びにベッドに駆け上がった。
──やれやれ。



『犬』2
犬になれと言ったら、嫌です、何にでもなれるわけではありませんときた。嘘をつけ。お前は黒猫にも黒馬にもなっただろうと睨めば、御存知でしたかと殊勝に俯く。だからさっさと犬になれとさらに催促すると、もうすでに貴方の犬です、これ以上どうしろというのです、と悲しそうに言われて胸を衝かれた。


『あくまでタナカですから』
寝付けぬ老家令は庭に出て夜空を仰いでいた。と、二階の執務室の窓に、燭台の作る影が二つ。並んでいたかと思うと、一つに重なり、フッと灯が吹き消された。
主が彼を求めるならばそれもよい。だが主に仇なすときは──。
カチリと腰の刀の鯉口を切った。
「このタナカ、相見えても、主をお助けいたしますぞ」



『執務室』
淡い午后のまどろみ。開け放った窓から入る涼しい風が気持ちいい。
書類仕事も何もかも放り出して、このまま眠ってしまいたい──
瞬時にふわりと抱き上げられ、リネンのシーツの上に横たえられた。
紅茶色の瞳が甘く僕を見つめている。
黙っていても、必ず願いを叶えてくれる──僕の執事は優秀だ。



『イースター』
──昔、シエルはあたしが作ったイースターエッグを一番に見つけてくれたよね

君が嘘までついて、確かめたかったことは何だろう。
僕が変わったこと?それとも僕が僕でないこと?
確かめて、君は一体どうするつもりだった?
知れば、僕の罪を共に背負うことになってしまうのに。
だから、エリザベス。
君には明かさない。この嘘の真実は──。

『バスルーム』
白いタイル、湯気や石けんの香り、僕の素肌……。それがお前をくつろがせるんだろう。いつもの刺がなくなる。送られる視線が優しい。触れる手のひらが、冷たさを捨て、穏やかな熱を孕んでいる。一瞬、全てを委ね、心もからだもなにもかも明け渡してしまいたくなる。この世で最も信用のならないお前にな。



『影』
乾燥した空気と強い日差し。影がいつもよりも濃い。
「坊ちゃん、暑くないですか? 中にお入りになりますか?」
手にした大きなパラソルを広げる。地面に映る影の形はまるで悪魔の翼のようだ。
その思いやりも優しい口調も、すべて食事のためなのだろう? 
心が乾く。
黙り込む僕に、悪魔は何を思ったのか、身をかがめて僕の唇にそっとキスした。



『未来』
君が大人になる頃には、僕はもういないかもしれない。 リジー……いや『エリザベス』。 
できるなら悲しまないで欲しい。君の人生を生きて欲しい。 
僕の望みが叶った暁には、傍らの罪の証と共に僕は消え去るだろう。 
朝には消える夢みたいに。まるで僕など最初から存在してなかったみたいに。



「10日の間ずっと手をつなぎ続けないと出られない部屋に閉じ込められたセバシエについて五七五で表現してください」(診断メーカーのお題から)

ひたすらに 指絡め合う 十の夜



『七夕』
年に一度の逢瀬でも、約束されているだけ羨ましい。 どれほど待っても、どれほど捜しても、貴方に出逢えるとは限らない。 貴方の気配のするどんな小さなカケラも見逃さないように、 この地球上をあまねく彷徨おう。 貴方という存在を再び胸に抱くその日まで。